抹茶のフィナンシェ
嬉しかったことよりも、悲しかったことの方が記憶に残るのはなぜだろうか。
(もちろん過去にあった嬉しかったことも覚えてるけど)
随分昔に何気なく言われた一言が忘れられなかったり、強烈に傷ついたことは鮮明に覚えていたりする。
ここ最近でこれはきっと忘れられないだろうなぁということがあった。
それは友人のお母さんの死だ。
病気で闘病中だった友人の母と初めて会ったのは入院先の病院にお見舞いに行ったとき。
その時はまだ顔色も良かったし、「体は痛いのに食欲だけは止まらないのが嫌んなっちゃうよ〜」と笑いながら話していたのを覚えている。
友人のお母さんはサンキューベイクの抹茶のフィナンシェをとても気に入ってくれていた。
あまり食欲がない時もおいしいと言ってこれは食べてくれると聞いてとても嬉しかった。
「退院したら一緒においしいものをお腹いっぱい食べにいこう」と手を取って約束をしたのになぁ。
友人からいよいよかもしれないと連絡があり、私はいても立ってもいられなくなり、とっさに近くにあった抹茶のフィナンシェを掴んで病院へ向かった。
さすがにこんな時に家族でもない私が押しかけるのは迷惑なので、こっそり受付の看護婦さんに預けてすぐ立ち去った。
そしてその日の夜中にお母さんは息を引き取った。
数日後無事にお母さんを天国へ見送ったと連絡があった。
棺にはご家族の思い出、そしてあの時持っていった抹茶のフィナンシェも一緒に入れてくれたんだとか。
いろんな想いが込み上げて涙が止まらなかった。
どうか天国でにこにこしながらおいしく食べてくれるといいなぁなんて願った。
抹茶のフィナンシェ。
私にとって忘れられないお菓子になったのだった。